お世話になりました!

結婚した日を機に、クリ子が今まで住んでいた家に押しかけ女房のように住み込んで、4年半。クリ子がここに住んで約10年、お世話になりました。

荷物が少ないと思っていた私達も、クリ子の10年という年月と共にモノは自然と増えていたみたいで、ここから荷物を出すのはなかなか大変なものでした。

ピアノのが出て行く時、荷物を下に運び出す時、ここの色々な住人に出会う時、はじめて気づく。私達はなんて恵まれた環境にいたのかを。

引越しの途中で出会う人みんなが、”もう、これから毎日ピアノの音は聞けないのね?”

私がここに引越して来てから、周りの住人を気にしながらピアノを練習し、レッスンをしていたこの部屋。この建物で会う人とは会釈をするぐらいの関係だと思っていたけれど、私はこの建物の中で知れ渡っていたようだ。

皆から、ピアノが聞こえてくる家。この建物で会うアジア人、イコールピアノ弾き。みたいなのが、この住人の中ではインプットされていたらしく、引越しをする時、はじめてその存在に気づく。

会う人、会う人、皆が”もうピアノは聴けなくなるの~残念!”と心から何度も言ってくれる人達。演奏会前、一日8時間近くピアノを弾こうが何一つ文句もでてこなかったこの住人。私は本当に感謝しなくてはいけない。

みんなに有難う。お世話になりました!と挨拶をし、新たなこの後の二人の生活に向けて出発しなければならない。早く、ここを脱出したいと思っていた私だったけれど、出ることになって初めて気づいた。ここの人の優しさを。そしてピアノを弾くことにすごく恵まれていたことを・・・・。そして今度住む家でも音楽に理解があって欲しいと心から願うことも・・・。